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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)1507号 判決 1971年8月30日

原告(反訴被告)

帝都建鉄工業株式会社

代理人

旦良弘

被告(反訴原告)

日の出産業製作所こと

渋谷時夫

代理人

吉田正一

主文

1  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金五〇〇万円およびこれに対する昭和四五年二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  反訴原告(被告)の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、被告(反訴原告)の負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実<省略>

理由

第一本訴請求について

一<略>

二そこで、まず、本件登録意匠と被告製品の意匠の類否について検討する。

(一)  本件登録意匠

成立に争いのない甲第一号証(本件登録意匠の公報)によれば、本件登録意匠は、竿掛部を付けるべき直立部およびその上方にある同水平部よりなる本体とその水平部および直立部に付された竿掛部との二部分からなり、

(イ) 本体は、円管二本を、その下方約三分の二において並列に連接した直立部とその上部約三分の一においてそれぞれ左右に円孤状に折り曲げ水平かつ一直線状にした水平部とをもつて、正面および背面よりみた形状をT字形とし、

(ロ) 水平部の左右両部上側に、それぞれ二個ずつの正面および背面よりみて逆U字状の竿掛部を、水平部全長について三つの等間隔をおくように直立して設けるとともに、直立部の中間よりやや上部に正面よりみて左側に状の竿掛部を設けた物ほし用竿掛の形状にかかるものであることが認められる。

(二)  被告製品の意匠

被告製品の図面であることに争いのない別紙第二目録記載の図面および昭和四四年五月一七日当時市販されていた被告製品の写真であることに争いのない甲第一三号証の一から五までによると、被告製品の意匠は、

(イ) 円管二本を、その下方約三分の二強において並列に連接した直立部とその上部約三分の一弱においてそれぞれ左右に円孤状に折り曲げ水平かつ一直線状にした水平部とをもつて、正面および背面よりみた形状がT字形の本体とし、

(ロ) 水平部の左右両部上側に、それぞれ二個ずつの正面および背面よりみてU状の竿掛部を水平部全長について三つのほぼ等間隔をおくように直立して設けるとともに、直立部の中間上部寄りに正面よりみて左側に、ほぼ半円形状の竿掛部を、その遊離先端を直立部につけられた側の先端よりやや下がり気味にとりつけた(これらの竿掛部については、ビニール・プイプで覆われたもののあることは、当事者間に争いがない。)

物ほし用竿掛の形状にかかるものであることが認められる。

(三)  両者の対比

そこで、本件登録意匠(以下「甲」という。)と被告製品の意匠(以下「乙」という。)とを対比すると、

1 まず、本体については、その直立部が乙においては甲よりも長寸ではあるが物ほし用竿掛の意匠にかかる形状としてみるとき、甲、乙ともに全体としてほぼ同等のT字形を呈している点で共通である。

2 次に、竿掛部については、水平部上の竿掛部の形状が、甲では逆U字形であるのに対し、乙ではU状であること、直立部の竿掛部の形状が甲ではU状であるに対し、乙では半円形状で、その遊離先端が非遊離先端よりも下がり気味に取りつけられている点および直立部における竿掛部の取付部位の高低、乙には、ビニール・パイプをつけたものがある点で差異があるが、水平部上の竿掛部が左右二個ずつ水平部全長について三つのほぼ等間隔をおくように直立して設けられている点および直立部の竿掛部が正面からみて左側に設けられている点で共通している。

3 このように、甲と乙とは、竿掛部の形状と直立部の竿掛部の取付部位に若干の差異があるけれども、以上の対比にかんがみ、甲も乙もそれぞれ全体として観察した場合、これらを観る者に特に強く印象を与える点は、前認定のとおりの特定の形状にかかる本体のT字形をした部分とこれに対する五つの竿掛部の関係的配置にあるということができるから、この要部を共通にする以上、乙は甲に類似するものというのが相当であり、前記の差異は、両者の意匠としての美惑に影響を及ぼすものではない。なお、被告は、被告製品には直立部(軸)のコンクリート製支持台がある旨主張するが、この種支持台は、一般に付加的構造物であり、被告製品が本件登録意匠に類似する意匠にかかる物ほし用竿掛をそのまま有している以上、右支持台の有無が前示判断を左右するものとは考えられない。

(二)  もつとも、被告は、本件登録意匠の前示T字形状は、古くから用いられて来たものであるから、意匠として特段の意味をもたない旨主張するが、前認定のとおりの特定の形状にかかるT字形の竿掛について、その主張にそう証拠はなく、この主張は採用できない。

三次に、原告の損害について検討する。

(一)  原告が、本件意匠権を取得してから、本件登録意匠にかかる物ほし用竿掛を製造、販売したことは、当事者間に争いのないところ、被告は、原告は、昭和四〇年三月に、被告が被告製品を販売してからは、従前の製品をこの被告製品と同じようなものに切りかえて製造、販売をはじめた旨、あたかも、原告が、本訴損害賠償請求の期間中本件登録意匠についての実施をしなかつたように主張する。しかし、意匠権者は、登録意匠はもちろんこれに類似する意匠をも実施する権利を専有することは、意匠法第二三条の明定するところであり、被告製品の意匠が本件登録意匠と類似することは、さきに説示したとおりであるから、被告の主張は採用できない。

(二)  被告は、意匠法第四〇条本文により、被告製品が、原告の本件意匠権を侵害する行為につき過失があつたものと推定されるところ、この推定を覆えす証拠はない。

(三)  次に、被告が、昭和四二年七月から同四四年七月二八日ころまでの間、被告製品を毎月二、〇〇〇セット以上販売し、一セットにつき金三〇〇円の利益を得ていたことは、当事者間に争いがないから、被告は、前記期間内にその被告製品の販売によつて、合計金一、五〇〇万円の利益を得たことは計算上明らかである。

そうだとすると、この利益額が原告の損害額ではないとするなんらの証拠のない本件では、意匠法第三九条一項により原告の被つた損害と推定される。

四よつて、この損害金の内金五〇〇万円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな昭和四五年二月二八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は、その余の点につき検討するまでもなく、理由がある。

第二反訴請求につき

被告の反訴請求は、被告製品の製造、販売が原告の本件意匠権を侵害しないことを前提とし、原告が被告に対してした被告製品の製造、販売差止、製品の執行官保管の仮処分の執行および被告の取引先に対する宣伝等が不法行為になることを原因とするものであるところ、被告製品の製造、販売が本件意匠権を侵害するものであることは、本訴につき説示したとおりであるから、原告の前記行為は、なんら不法行為を構成しないことも明らかである。

第三よつて、原告の本訴請求は、理由があるからこれを認容し、被告の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき、同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 高林克己 野沢明)

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